2022年08月02日
クワッド・アクセルの科学
先日、羽生選手の4回転アクセルについて書かれた記事が話題になっていたことに興味を持って、白水社の新刊案内の小冊子
『白水社の本棚』を送っていただきました。
『クワッド・アクセルの科学』と題された記事を書かれたのは、
東京大学教授で、科学技術社会論、科学計量学を専門とされている藤垣裕子さんです。
一部中略させていただきながら書き起こしました。
* * * * *
ロシアによるウクライナ侵攻によってすっかり忘却の彼方に押しやられてしまったが、今年二月の大きなイベントは北京オリンピックであった。
そこで多くの人の注目を集めたのが羽生結弦選手の4A(クワッド・アクセル、四回転半)ジャンプ挑戦と認定である。先ごろある雑誌上で本人自らによる4A解説を読み、これは「科学」 だと思った。
(ある雑誌と言うのは、『ICE JEWELS Vol.16』に違いないと思います。羽生選手自身による4回転半自己解説が掲載されていたのはこの本だけですから。)
ジャンプの踏切り、入り方を工夫することによってジャンプの軸が中心から外れないようにしてブレない軸を作る、離氷した瞬間の高さ、空中姿勢、そして着氷時の上半身の顔の位置、下半身と右足エッジとの関係。
自らの写真をもとに解説する言葉は、「ジャンプを科学する」と形容できるくらいに説得力があった。
実際、身体を剛体に例えるならば、氷上を高速で滑ってきた運動エネルギーを位置エネルギー(高さ)に換え、滞空時間を作り、その滞空時間内で回転をするわけであるし、剛体の回転は慣性モーメント(剛体の質量が重力の中心に対してどのように分布しているか)が小さいほど速くなる。つまり、ブレない軸は、慣性モーメントを小さくし、限られた滞空時間内での回転数を増やすことに貢献するわけである。
さて、フィギュアスケートは純然たるスポーツであり、採点される競技である。そこには「いかにして美とそれを支える技術を測るか」という難しい問題がある。
(中略)
フィギュアスケートの採点方式の歴史は、「美と技をいかに客観的に測るか」についての人間の模索の歴史なのである。
ところで、羽生選手のパフォーマンスを見ていると、私は英国のロックバンド「クイーン」のヴォーカル、フレディ・マーキュリーとの類似点を発見してしまう。
何故か。
第一に、羽生選手の演技は、スポーツと言う枠を超え、見ている人たちに希望を与えようとしている点だ。稀代のエンターティナーであったフレディも、見て(聴いて)いる観客に楽しんでもらうことを最大の目的としていた。
第二に、羽生選手の演技からは感情があふれており、曲が持つ世界観を表現している点である。
第三に、社会の注目を常に浴び続けているために、有名であるがゆえの「匿名性の喪失」がおきている点がある。
二人の共通点の最後の点は、二人共「教養人」であることだ。
ここで教養とは、知識がたくさんあることではなく、自分自身をメタレベルで冷静に観察する眼をもつことを指す。自分で自分にツッコミを入れる力と言ってもいい。
たとえばフレディは、「僕ほど自分をおちょくれる人間はいないと思う」と自己省察の言葉を多く残している。
一方の羽生選手は2021年末全日本戦で演技の後にキス・アンド・クライで自らの演技ビデオを見ながら、「めちゃクールな顔してんじゃん、ほんとはほっとしているくせに」と自分でツッコミを入れていた。いついかなるときにも的確な判断ができるように知性を磨くことが教養教育であるが、そのためには自らにツッコミを入れる力が不可欠なのである。
* * * * *
私もクイーンも、フレディー・マーキュリーも大好きですが、こんな風に二人の共通点を意識したことはありませんでした。
藤垣さんはきっとフレディの大ファンでもあるのだろうなと推察しました。
その演技からは感情があふれ、見る人に希望を与えようとする、そんな結弦くんに私もどれだけ励まされてきたでしょう。
その反面、結弦くんは自分自身や置かれた立場を客観的に俯瞰的に見ることにはとても長けていますね。
そしてどんなときにも冷静に的確な判断ができる人です。
熱い心とクールな頭脳、そして自分を客観視できる知性、それが結弦くんとフレディの共通点だなぁと思いました。
白水社さんには語学系の本でも随分お世話になりましたが、とても良心的で素晴らしい出版社です。
『白水社の本棚』は年4回の季刊で、白水社のHPから申し込むと無料で送ってくださいます。
どこかで結弦くんがクイーンの曲で踊っていたなという記憶がありました。
それは2015年のバルセロナGPFのエキシビションのフィナーレで、
クイーンの「Don't stop me now」が流れていたのです。
結弦くんが330.43点という、当時の世界最高得点を記録した記念碑的な大会です。

今日の動画は、GPF3連覇したバルセロナGALAでの楽しそうな様子をご覧ください。
Don't stop me now ! って、結弦くんの今の気持ちにぴったりなんじゃないのかな。
もう何も阻むものはないのだから、思いっきり駆け抜けて!
お読みいただきありがとうございました。
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