全日本選手権3連覇中の小松原美里(29)尊(ティム・コレト=30)組(倉敷FSC)が、夫婦で戦い抜いた。そして涙した。フリー104・07点の合計172・20点をマーク。ともに自己ベストで、前日のリズムダンス(RD)でも68・13点の自己新を出しており大きく記録を伸ばした。
和の「SAYURI」を淡いブルーの衣装で舞い、ツイズルやリフトなどで最高評価のレベル4を獲得した。「私たちの競技人生のハイライトになると思っている」と美里が話していたプログラムを全うし、キス・アンド・クライでは高得点に胸をなで下ろした。
一方で演技後には感情があふれ出た。美里は「ここまで、いろいろと受け入れられないこと、我慢できないことがあって…」と涙を抑えられず「でも、プロフェッショナルとして、応援してくださっている方々のために最後まで滑り切ろうと思いました」。いつになく緊張が張りつめた雰囲気で、険しい表情で、得点を待った。「終わってホッとして。感情が出てしまいました」と涙の理由を説明した。
つらかった出来事については「今も続いていることなので、言いません」と、1人で夫婦で耐えることを決めて、言葉にすることはしなかった美里。グッと、のみ込んだまま「この緊張感の中で自己ベスト。ものすごく将来の自信につながると思いますし、ステップのレベルなど、もっと上げていけば、もっと更新できる」と前を向いた。
尊も、こらえ切れない。第1戦スケートアメリカの後、原因不明のビザの問題で拠点のカナダ・モントリオールに戻れなくなった。全幅の信頼を置くコーチに会えず、尊の故郷である米コロラドスプリングズでzoom越しの指導を受けるしかない。
尊も「モントリオールの先生に会えない状況…このままでは心が壊れてしまいます」と涙をこぼした。一緒に練習できない。「まだ正解がない。2人で頑張っていくしかない」と苦しい胸の内を打ち明けた。
美里が手を握り、尊の背中をさする。その美里も左の肘を触りながら「靱帯(じんたい)を損傷してしまったので、月曜日にアメリカへ戻ります」と検査を受けることも明かした。
第一人者の小松原夫妻を数々の逆境が襲う。今季初の直接対決となった村元哉中(28)高橋大輔(35)組(関大KFSC)は合計179・50点を出した。7・30点の差で上回られた。
ただ、美里は涙を止めて気丈に答えた。「モントリオールに戻れない今、この大会は先生たちと一緒に過ごせる数少ないチャンス。少しでも、何をすればいいのか情報をいただいて。さらに伸ばしていきたいと思います」。夢の22年北京オリンピック(五輪)日本代表が決定する全日本選手権まで、泣いても笑っても40日超しかない。これまでのスケート人生を信じて突き進むしかない。【木下淳】